金色の不同意(千字戦参加作品)

 彼の音は、いつも開いていた。トランペットのファーストらしい華やかな音ではあったが、まるで浅いマウスピースを使っているようなぺらりとした音。彼が出した音だとすぐわかる。金色のBACHを使っていた。さらりさらりと高音を吹き流すが、どうしてもきらきら以上のぱらぱらが広がっているような、そんな音を出す、部活の先輩。彼の音が、どうしても好きになれなかった。私は唇が厚くて高音が出せなかったため、彼の下支えをすることが多かったが、私の音は、自分なりに、凪いだ川の水面を渡るようなまっすぐな音を心がけていた。当然、彼の音との相性は悪かった。音と同じように、それほど仲良くもなれなかった。

 高校を卒業して8年ぶりに、トランペットパートの同窓会に呼ばれた。彼もいて、銀行員になっていた。高校のときより垢ぬけた私を、彼が見る目。あの目、知ってる。性的な目だ。

 結構飲みすぎてしまった帰り道、ふらつく私を支える彼の手。案の定、誘われた。

「やる?」

「やらない」

 彼の手が開く。瞬間、彼の頭が、トランペットの開いたベルに見える。金ぴかの、彼の音のようなぱっくりと開いた頭。ああ、開いてるなあ。

 私も手を開き、彼の開いた手にハイタッチをする。

「ちゃんと聞いてえらいね」

「性的同意、くらい知ってるし」

 不服そうな顔をする彼に、私は笑って、彼も笑って、まっすぐ駅に向かう。

 開いて、結んだ手で、もう一度げんこつハイタッチをした。またね。