2023-12-01から1ヶ月間の記事一覧

金色の不同意(千字戦参加作品)

彼の音は、いつも開いていた。トランペットのファーストらしい華やかな音ではあったが、まるで浅いマウスピースを使っているようなぺらりとした音。彼が出した音だとすぐわかる。金色のBACHを使っていた。さらりさらりと高音を吹き流すが、どうしてもきらき…

梅からの伝言(千字戦参加作品)

その枝は、どちらに伸びるか決めかねていた。狭い庭に植えられた梅の木である。まだ若木で、その枝がどこを目指すかによって、木全体の大勢が変わってしまう、そんな時期であった。 あちらに行ったら塀があるが、でも日当たりはいい。そのころの枝にとって、…

Ca

静香は薄手の黒いストッキングを履いて、同じく薄手の黒いストッキングを履いた女と、向き合っていた。 先週死んだ夫は今日焼かれて、骨壺に入れられ、今は静香の手の中にある。うちうちの式だったから、残っているのは長男の隆とその嫁、孫たちばかり。彼ら…

私は風呂に入れない

私は鬱病だ。心療内科に通院し、何とか日常生活をこなしているつもりだが、傍から見てどうなのかはわからない(わからないのは鬱病のせいではない。客観性は鬱病になる以前からもちあわせていない)。 鬱病歴が20年にもなると、鬱病エリートになる。向精神薬…