置いてけ堀にて

 しなる柳の枝についた葉の一枚一枚がわたしの思い出だった。暗い堀に映る揺らぐ月影が大きく歪み鯉がうねる。秋は秋と名乗らず来た。夜露をしのぐ備えもなくただたたずみ時間を徐々に呼び覚ませば、声も形もないのに覚えているむかしの人たちと対面せざるを得なくなる。今、わたしたちは遠い。それは事実だろうか。一度近づいたのに遠くなったのは、本当だろうか。あの人たちはわたしのことなど覚えていないだろう。覚えられていないわたしは別に遠くなってすらいないだろう。一度は多分近づいた。そこからは、ぷつんと途切れて、無。
 わたしだけが置いてけぼりだった。